ついに登場! クーベリックの大地の歌AUDITE マーラー・シリーズ中、最高レヴェルの音質です1970年2月27日、ミュンヘン、ヘルクレスザールでライヴ収録(ステレオ)。以前、イタリアの音質最悪な海賊盤で出ていたこともありますが、今回は正規の放送局音源使用ということで音質はきわめて良好。 当時としてはかなり凝ったマイク設定だったらしく、細部まで克明に収録されており、頻出する点描的なソロ楽器の表情もオン気味で非常にリアル。左奥に位置するコントラバスの音も実に生々しく、歌手の声も伸びやかで美しいのが何よりの朗報。 ドイツ・グラモフォンにクーベリックが残したマーラー全集には《大地の歌》は含まれていないため、この良質な録音の存在は非常に貴重。 テノールにはロブストな美声でクレンペラーにも気に入られていたヴァルデマール・クメント[1929- オーストリア]を起用。 クメントは、あるインタヴューで、最も影響を受けた指揮者としてクレンペラーの名を挙げていました。 そういえば彼は、この録音の2年半ほど前、1967年7月7日に、カルロス・クライバーの指揮でも《大地の歌》を歌っていますが、そのときのクライバーが、指揮をするにあたってクレンペラーのところに助言を求めに行ったのは有名な話。 クメントの歌唱は、そうした背景ゆえか、きわめて端正であり、シリアスな重みを備えて存在感も十分。 ヴンダーリッヒばりの名唱が聴かれます。 メゾ・ソプラノにはマーラー歌手として声望高いジャネット・ベイカー[1933- イギリス]を起用。彼女は1962年にクレンペラーの《復活》で決定的な成功を収め、その後もバーンスタインやバルビローリ、セル、ハイティンク、ティルソン・トーマス、ラトルなどいろいろな指揮者のもとでマーラーを歌っています。 その歌唱スタイルは叙情的で、濃やかな情感表現に長けており、フェリアーの再来と称えられたのも頷けるところです。 ここでも第2楽章のしっとり美しい歌唱や、第4楽章での豊かな表情、第6楽章での詩の意味を咀嚼した意味深い歌がその実力の高さを十分に裏付けてくれます。 オーケストラは手兵のバイエルン放送交響楽団で、楽器配置はいつもながらのヴァイオリン両翼型。コントラバスは左手、ティンパニは右手に置かれています。 第1楽章展開部では、まず開始部分の第2ヴァイオリンの強さに思わずビックリ。その後も左右に飛び交うヴァイオリンの音型が刺激的ですし、ホルンやトランペットの雄弁さも印象に残ります。 同じ部分、ピツィカートとフルートのフラッターを強調したクレンペラーに対し、クーベリックは弦で関連動機を強調。それも言葉と楽器の密接な関係を焙り出そうとしているかのような徹底ぶり。 このアプローチは弦・管を問わず全楽章一貫して行われていて非常に効果的です。 第6楽章《告別》では、ソロ楽器の立体的な響きが随所でおもしろい効果を発揮。 楽章中央、展開部のオーケストラだけによるブロックも、諦観をベースにしたようなアプローチに、適切なパースペクティヴが備わって素晴らしい聴きものとなっていますし、とにかく、驚くほど生々しい管楽器の表情が、《大地の歌》の新たな楽しみ方さえ教えてくれそうな情報量の多さなのです。 マーラー好きにはこたえられないアルバムの登場と言えるでしょう。実測時間 8:35 + 9:32 + 3:07 + 6:37 + 4:22 + 29:29 = 61.42 ちなみに、演奏会当日の前プロは、モーツァルトの2台のピアノのための協奏曲で、ピアノはカサドシュ夫妻という豪華なものでした。この音質で収録されているのなら、そちらもぜひCD化してもらいたいものです。【収録情報】・マーラー:交響曲『大地の歌』 ヴァルデマール・クメント(T) ジャネット・ベイカー(MS) バイエルン放送交響楽団 ラファエル・クーベリック(指揮) 録音時期:1970年2月27日 録音場所:ミュンヘン、ヘルクレスザール 録音方式:ステレオ(ライヴ)Powered by HMV