ベートーヴェン：ディアベッリ変奏曲アンドレアス・シュタイアーフォルテピアノはコンラート・グラーフショッキングなペダル使い！近年ますますの充実ぶりを見せているアンドレアス・シュタイアーの新録音。今回シュタイアーがとりあげたのは、ベートーヴェンが腕によりをかけて主題を33回に渡って変容させたディアベッリ変奏曲。ベートーヴェンの自筆譜ファクシミリを入念に研究した説得力満点の演奏です。さらにこのアルバムでは、他の作曲家の手によるディアベッリの主題による変奏も収録しているほか、自作の「イントロダクション」も収めるというかなりのこだわりぶりを見せています。【ヤニチャーレン・ペダルのショッキングな音】シュタイアーの演奏はいつもながら霊感に満ちて素晴しいものですが、ここではペダルの使い方（音色の選択）も実に新鮮！　ヤニチャーレン（ジャニサリー）・ペダル（トルコ親衛兵の軍隊音楽の打楽器の音色を思わせるガシャーンという音のするストップ）を使っての変奏23のドン・ジョヴァンニ変奏曲風楽章、変奏24のチェルニー練習曲カリカチュア風楽章の冒頭の和音は、なんともショッキング！　シュタイアー渾身のディアベッリ、大注目です！【ディアベッリの依頼による変奏曲】もともとディアベッリ変奏曲は、当時のウィーンの有名な出版商で音楽家でもあったアントニオ・ディアベッリ[1781-1858]が、自分が作った主題を、当時人気のあった作曲家たち50人に渡し、それぞれ1曲の変奏曲を作曲するよう依頼、それらをまとめてひとつの変奏曲集として出版しようとしたものです。　発注は1819年春頃で、大抵の作曲家（リストやシューベルトら）は注文のとおりに変奏を書きましたが、ベートーヴェンは当時『ミサ・ソレムニス』の作曲に従事していたことなどもあり、本腰を入れ始めたのは1822年頃のことでした。最終的にベートーヴェンの作品は33もの変奏からなる大曲となったので、ディアベッリはベートーヴェンの作品は単独で出版、他の作曲家たちによるものは、それとは別に1824年に出版されています。【シュタイアーの見解】ベートーヴェンの作品が33もの変奏曲から成る大作になったことについて、シュタイアーは、「これは偶然ではない」と語ります。ベートーヴェンはこの主題のことをあまり好んでおらず、また、他の作曲家と一緒にされたくなかったという理由で、こんな巨大な作品にしたのだろうと語られることもありますが、そのような理由だけで書いたにしては、その自筆譜からは、あまりにもベートーヴェンが苦労したあとが窺われる、と。バッハのゴルトベルク変奏曲は30の変奏から成り、また、自作主題による変奏曲は32から成ることをベートーヴェンは強烈に意識していたはずと語ります。【他の作曲家によるディアベッリ変奏曲】ディスクの前半では、ディアベッリの書いた主題と、依頼された多くの作曲家の中から選ばれた10人の作曲家による変奏曲が演奏されています。シューベルトによるシンプルながら天賦の才能に満ちた変奏、リストによるピアニスティックな変奏など、ヴァラエティ豊かなセレクションです。　しかしシュタイアーは、これら他の作曲家による変奏曲と、ベートーヴェンの偉大な変奏曲の間に何か聴覚的・時間的な距離を置きたかったと語ります。【ベートーヴェンのスケッチによるシュタイアーの創作】そこで両者の間に置かれたのが、シュタイアーの創作になる「イントロダクション」です。　これは、1819年にベートーヴェンがディアベッリから発注を受けた際に残したスケッチから着想を得て、シュタイアー自身が創りあげたもので、幻想的で不思議な即興演奏のような空気の中、時折ベートーヴェンのソナタの断片を思わせるようなモティーフもちりばめられたという面白い作品です。【収録情報】・ディアベッリのワルツ主題に基づく50の変奏より（1824年出版、ウィーン）　ディアベッリ：テーマ　ツェルニー：変奏IV　フンメル：変奏XVI　カルクブレンナー：変奏XVIII　ケルツコフスキー：変奏XX　クロイツァー：変奏XXI　リスト: 変奏XXVI　モシェレス：変奏XXVI　ヨハン・ペーター・ピクシス：変奏XXXI　F.X.W.モーツァルト：変奏XXVIII　シューベルト：変奏XXXVIII・シュタイアー：イントロダクション・ベートーヴェン：ディアベッリ変奏曲 op.120（全曲）　アンドレアス・シュタイアー（フォルテピアノ／コンラート・グラーフモデル）Powered by HMV