クレンペラー未発表音源登場!ストラヴィンスキー《ペトルーシュカ》なんとクレンペラーの《ペトルーシュカ》の登場です。クレンペラーのストラヴィンスキーは、併録の《プルチネッラ》のほか、録音では《3楽章の交響曲》が知られていますが、どちらも前衛の旗手として、ストラヴィンスキーの信任篤かった若き日の活動を思わせるようなドライなアプローチと、晩年のスローなテンポ設定が結びついて、ユニークきわまりない演奏に仕上がっていたのを思い出します。 今回、初登場となるこの有名なバレエ音楽で、クレンペラーが果たしてどのようなアプローチをおこなっているのか大いに楽しみなところですが、使われているヴァージョンが“1947年版”であることがまず注目されます。 よく知られているように、この作品には四管編成の“1911年版”と、36年後に改訂された三管編成の“1947年版”があり、昔の指揮者は多くの場合、前者で演奏していたからであり、色々な意味でテクニカルに進歩した“1947年版”は、若手や中堅どころが用いるのが通例になっていたからです。自ら作曲もしていたクレンペラーの場合、その“1947年版”で示された語法の発達ぶりに注目しないわけにはゆかなかったはずで、実際、ここでもユニークきわまりない演奏を聴かせてくれているのです。 では、この作品にキーワード的に用いられている民謡の旋律や、猥雑なまでの賑々しい雰囲気や不気味さを、厳格居士クレンペラーがいかなる手法で料理しているのか、以下、簡単にご紹介しておきます。 快速かつ大音量な部分での生理的・本能的な快感への関心の欠落ぶりはいつもながらで、その意味で第1場謝肉祭の場の前半では、そうした点に不満を抱かせたりするものの、音楽が冷静になるにつれ、次第にクレンペラー解釈の面白味が顔をもたげてきます。 《ペトルーシュカ》が、実際にはきわめて室内楽的書法による作品であり、特にこの1947年版が、多彩で研ぎ澄まされた手法によって、グロテスクな寓意に富む三角関係を描き出していることを、あらためて聴き手に想起させてくれるのです。 例えば第3場におけるワルツ(TRACK 5/00:49-)では、並存する異種(異拍子)の音楽が、完全に均等に扱われた結果、不気味な分裂的性格さえ匂わせて先の悲劇を巧みに暗示します。実はこの場面、1911年版と1947年版で大きく異なるところでもあり、こうした点からもクレンペラーがなぜ1947年版を選んだのかがよく判ります。 また、47年版で工夫されたブリッジ部分でのドラム・ロールにも徹底した気配りがなされており、少ない人数ゆえに際立つソロ、例えばほとんど古楽器のような音色で聴き手を驚かせるオーボエなどの扱いもきわめて雄弁。鋭利なリズム、強靭な拍節感によって、3体の人形が織り成す寓意に満ちたドラマが縦横無尽に表現し尽くされます。 どんな場面でもその立体的・複合的な音楽の表情の多彩さ、つまり膨大さには圧倒されるばかりで、そうした方法論が、この《ペトルーシュカ》のような、実は非常に複雑な性格を持った作品においていかに有効に機能するか、このディスクを聴けば即座にご納得していただけるはずです。 併録された《プルチネッラ》(以前、EMIでCD発売済み)での異様なまでに細部拡大されたグロテスクで刺激的な演奏とあわせ、マニアな方には、たいへんな聴きものとなるアルバムだといえるでしょう。Powered by HMV