本書は、創作をとおして普遍的な世界に向き合う作曲家の知られざる内面に肉薄し、日本では耳にすることがまだ極めて少ないミサ曲やレクイエムに光を当てる。特に、20世紀前半の両大戦に際して作曲された、知られざるミサ曲やレクイエムの数々は本書独自。特にナチス政権下のドイツでミサ曲やレクイエムを作曲した作曲家について述べられるのはおそらく日本初だろう。またコラムは、そこだけ読んでも社会や宗教と音楽との関係を深掘りできる充実の内容となっている。合唱愛好家がレパートリーを増やすだけでなく、音楽・芸術史(愛好)家が近現代史を見つめなおすのにも役立つ1冊。本書では、ミサ曲とレクイエムをひとつのまとまりと捉え、近代以降に焦点を絞って記述する。遠い時代のことではなく、現代により近い時代を生きた作曲家たちが、戦争で命を失っていく存在のために音楽作品を書いたことに、多くの読者が共感を寄せるだろう。ミサ曲とレクイエムの著者による訳詞つき。