本書は中国復旦大学・戴耀晶教授の名著『現代漢語時体系統研究』の訳書である。“体”(アスペクト)はテンス、モダリティなどと並び、文法を理解する上で避けては通れない重要な研究分野の1つであり、中国語学習者にとってもまた、最初に遭遇する難関の一つが「完了」を表す動詞接辞“了”である。“了”は日本語の「過去/完了」を表す助動詞「た」の用法と一部重なるものの、これと共起する動詞のアスペクト的意味や、目的語(名詞)が数詞と助数詞を含むか否かなど文の諸要素の性質と相関関係があることを理解せずしては適切な使い方ができない。戴氏は中国語のアスペクトを理解するためには、動詞や動詞接辞のみならず、副詞や動詞の目的語を含む、文を構成する諸要素にも考慮する必要性を強く主張するが、それはまさに今日まで受け継がれる中国語教授法にも影響を与えている。また、戴氏は海外のアスペクト研究で影響力のある分析手法も取り入れながらも、独自のアプローチで中国語のアスペクトを体系的かつ包括的に論じている。その訳本である本書は、中国語を専門としない読者にも戴氏の考えをよりわかりやすく伝えるため、丁寧に訳者註を施した。中国語や日中対照研究に関心のある方々に是非ご一読いただきたい。序言1 楊凱栄序言2 小野秀樹凡例第1章 言語におけるアスペクト範疇1.1 アスペクトの定義1.2 事態1.3 シチュエーションと動詞の分類1.4 3グループの意味素性1.5 アスペクト形式とアスペクト的意味第2章 完結アスペクト2.0 はじめに2.1 現実アスペクト:“了”-le2.2 経験アスペクト:“过”-guo2.3 短時アスペクト第3章 非完結アスペクト3.0 はじめに3.1 持続アスペクト:“着”-zhe3.2 始動アスペクト:“起来”-qilai3.3 継続アスペクト:“下去”-xiaqu3.4 終わりに第4章 瞬間動詞4.0 はじめに4.1 zheの付かない瞬間動詞4.2 zheの付く瞬間動詞4.3 瞬間動詞と瞬間的事態を表す文第5章 未来の事態を表す文における現実アスペクトle5.0 はじめに5.1 単一事態の文5.2 継起的事態の文5.3 条件文5.4 「参照時」について第6章 zheとleの互換性6.0 はじめに6.1 置き換えテスト6.2 並べ替えテスト6.3 付加テスト6.4 いくつかの結論第7章 泰和方言(贛語)の現実アスペクト7.0 はじめに7.1 現実アスペクトを表す“矣”7.2 完了を表す“刮”7.3 現実と完了を表す“改”7.4 疑問形式の“阿能”と否定形式の“呒能”参考文献付録 中国語版の序文 胡裕樹訳者あとがき