イギリス初の本格オペラ、マシュー・ロックによる『プシュケ』充実の器楽パート、合唱、そしてソロに圧倒! ドゥセによる見事な再構成にも注目イギリスのオペラ史初期における重要な傑作『プシュケ』の登場。フランスでリュリ、モリエール、コルネイユ、キノーが共同で創作した『プシュケ(プシシェ)』(1671)の大成功をうけて制作された、ロックの『プシュケ』(1675)は、ヨーロッパ大陸のオペラに負けぬようにと、演劇、歌、ダンスといった要素のほか、装置や背景といった実際の舞台面もこのうえなく豪華な上演がなされた作品です。歌唱パートはもちろん、器楽、そして合唱すべてが非常に充実して書かれており、聴きごたえ満点です。 英国で、ロックの『プシュケ』が生まれるきっかけとなったのは、フランスでルイ14世の肝いりで制作され大成功をおさめたリュリ作曲の『プシュケ(プシシェ)』(1671年初演)。モリエール、キノー、コルネイユ、リュリという当時の最高峰の芸術家たちが中心となり、わずか数週間という期間で完成されました。1671年の実際の上演にあたっては何百人もが雇われ、膨大な費用がかかったそうですが、それに見合うだけの大きな成功を収め、観客に感動と興奮を与えました。この作品の成功と素晴らしさはすぐに海峡の向こう側にも伝わり、テキストは英語に翻訳されました。そして1673年、ヨーク公(のちのジェームズ2世)の結婚を祝うために、この英訳されたテキストをもとにイギリス初のオペラを創造せよと、トーマス・シャドウェル、マシュー・ロックとドラーギの3名に白羽の矢が立ちました。 1675年2月に初演されましたが、この初演は、イギリスのオペラの歴史の中でももっとも重要なイベントとして今も英国史に輝いています。初演と同じ1675年に台本と楽譜が出版されました。楽譜はロックが出版したため、ドラーギが担当した音楽が含まれておらず、現在ドラーギが担当した部分は消失、という形となっています。しかしながら、台本自体にきわめて詳細に、場面場面での楽曲、楽器編成から歌手の立ち位置、繰り返しに至るまでの指示が記されていました。この楽曲指示とロック出版の楽譜を照らし合わせて、楽譜に載っていない楽曲がドラージが担当した部分と考えられます。ドゥセはこうした消失した楽曲(おもに場面転換の器楽曲)にふさわさいい作品を、まず初めにドラーギの現存する作品から捜索しましたが、既存作品を移調することなども含めて試行錯誤してもうまくいきませんでした。そこでドゥセは、リュリとロックの既存の作品から場面にふさわしいものを注意深く選び、この英国版『プシュケ』を再構成して完成させています。 プシュケのあらすじは、3人姉妹の一番下でもっとも美しいプシュケが主人公。彼女の美しさに嫉妬した姉たちが恋の神クピードに卑しい男とプシュケを結婚させるよう唆すが、クピードは誤って自分を矢で傷つけてしまい、プシュケとクピードは夫婦となる。その後プシュケが誤ってクピードをやけどさせてしまって、その介抱で衰えた自分の美しさを取り戻すために黄泉の女王プロセルピナのもとを訪れる、そこで、絶対に開けてはいけないと言われながら美しい金色の箱を受け取り、それを開けてしまい、神々の仲間入りを果たす、といった物語。ここではプシュケ自身には歌はなく、姉妹やほかの女神など、他の登場人物たちおよび合唱によって物語が進行されますが、非常に大規模で完成されたアンサンブルに驚かされます。物語の進行に何役も買っている合唱のパートの充実した美しさも印象にのこります。(輸入元情報)【収録情報】● ロック:歌劇『プシュケ』全曲 ルシール・リシャルドー(メゾ・ソプラノ) デボラ・カシュ(ソプラノ) マルク・モイヨン(テノール) アントニン・ロンドピエール(テノール)、他 アンサンブル・コレスポンダンス セバスティアン・ドゥセ(指揮、チェンバロ、再構成) 録音時期:2020年7月28日〜8月5日 録音場所:サントメール、ジェズイット教会 録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)Powered by HMV