『冬の旅』と双璧をなすシューベルトの歌曲集『美しき水車小屋の娘(水車屋の美しい娘)』では、ある若者の素朴でせつない恋愛模様が歌われる。が、それだけだろうか。本書では見過ごされてきた「水車屋の娘」の影を追いながら、作品の奥深い世界へと誘う。プロローグ せつない歌曲集第1章 もてあそばれた水車屋の娘ーー差別とエロティシズムの烙印小川はせせらぎではない/深い山あいに位置する水車/水車屋への差別/中世から続く最下層/娘となぜうまく行かなくなったか?/もうひとつの隠されたイメージ/広がるエロティシズム/貧民への厚遇がもたらしたもの/ラザロと共にいる貧民/見逃された差別とエロティシズム第2章 もてはやされた水車屋の娘ーーパイジェッロからゲーテへ大流行した《水車屋の娘》/イタリアへの憧れ/ドイツでの異なる展開/ゲーテが書いた『水車屋の娘』/身分設定の変更/小川の誕生/「低きミンネ」と民謡からの流れ/狩人とは何者なのか/ニーチェの視点/父からの脱出 第3章 ミュラーの恋ーーベルリンの若手知識人の群像ベルリナー・サロン/ルイーゼとの出会い/早熟の詩人/ミュラーへの影響/ミュラーの日記/出会いから恋へ/輻輳する関係/ルイーゼとブレンターノの出会い/恋が交錯する歌芝居《水車屋の娘、ローゼ》/ミュラーの日記の終わり第4章 《水車屋の娘、ローゼ》--ベルガーからシューベルトへベルガー《水車屋の美しい娘》の特徴/ヴィルヘルム・ヘンゼルの立ち位置/サロニエールの登場/川へ飛び込む水車屋の娘/ミュラー=シューベルトによる深化/小川を描くシューベルト/改めて冒頭に置かれた《さすらい》/リアリズムの発現/リアリズムからの変容/「白」の思想性第5章 息を吹き返す“しぼめる花”--差別とエロティシズムからの救済差別を浮き上がらせる/青の変容/美の堪能とシニカルな視点/性的な流れ/シューベルトの憐れみ/緑の狩人/水車屋の娘の浮気心/理想郷の否定/しぼめる花のゆくえ/絶対化をしないミュラーとシューベルトエピローグ 聖なる歌曲集にあらずあとがき参考文献註《水車屋の美しい娘》対訳