秘められたもうひとつの物語が動き始める! 「--お兄ちゃん、ここにお父さんとお母さんのお墓があるの?」麦藁帽子で獣耳を隠しながら由衣が言った。「ああ、皆のお墓がある」僕はあえてそういう言い方をした。真新しい墓石に、三つの名前が刻まれている……父、母、そして、妹の由衣の名前。「あたし、やっぱりほんとは、こっちにいる人じゃないんだね」墓石の前で、呟く由衣。僕は何と答えていいのか分からず、彼女の頭に手をのせる。ひさしぶりに踏んだ故郷の地で、僕はいま、海難事故のあの悲劇の過去と、ようやくと向き合おうとしている。アリッサと友月未由ーー大切な仲間たちに支えられながら。故郷の奈波は夏祭りを前に、徐々に活気を帯び始めていた。その背後で、謎の焼死体事件が相次いで起こる。そしてある真夜中、突然アリッサにぼくは起こされたーー「あのね、ミユがいないの」「こんな雨の中に?」「理由はわからないわ。でも、昨夜も外出していた気がするの」友月の行動が何かおかしい。見上げれば、月はもうすぐ満月になろうとしていた。僕は思い出す。友月一族の祖先は「月からやってきた」という言い伝え、そして未だ解かれていない≪群れ≫との謎の関わりを……。